熊本での学び①「自分の役割を直視する」

美術館で働いていらっしゃる方のお話

 

地震直後,美術館で展示物を片付ける作業に追われているとき。

被災現場や避難所では,人の命に関わる仕事を懸命に行っている人がいるのに,

自分はこんなところで展示物を片付けていていいのだろうか。

自分はいったい何をしているんだろうか。

ただ,展示物は,作家さんからお預かりした大切なものだから,美術館職員としてはそれを守ることが使命だということも分かっている。

もちろん自分の家もぐちゃぐちゃのままだ。

葛藤を抱えたまま懸命に働き続けた。

 

その甲斐あって,いち早く美術館を再開することができたとき,

来場者のみなさんの久しぶりの笑顔にほっとしたという。

「毎日辛い状況の中で,久しぶりに美術館に来ることができて嬉しい」という言葉をもらい,

美術館を守ってよかったと感じたという。

 

自分のやっていることが,「いま,そのとき」誰のために,何のために役に立っているのか,わからないことのほうが多いのだろう。
「いつか」誰かのために役に立つことを信じるしかない。

自然の驚異が目の前にあって,多くの命が危険に晒されていて,自分自身もいっぱいいっぱいで,

そんなときに,真に自分の役割を直視し,

葛藤を抱えたまま,自分の選択した役割を必死で担い続ける。

 

そんなお話を伺い,

日ごろ,自分のやっていることの意義をぐちゃぐちゃと幼稚な頭で考えたりしているけれども,真っ向から自分自身を直視することがどういうことなのかを,教えてもらった。